前歯が閉じない(開咬)
開咬とは
開咬(かいこう)とは、奥歯を咬み合わせても前歯が当たらず、すき間が残る状態を指します(前歯部開咬)。まれに奥歯が当たらない奥歯部の開咬もあります。
見た目の問題だけでなく、麺やサンドイッチが噛み切りにくい、サ行・タ行などの発音が不明瞭になりやすい、口が乾きやすいなど、日常生活に影響が出ることがあります。
セルフチェックの目安
- 麺類やパン類が前歯で切りにくい
- サ行やタ行の発音がはっきりしない
- 舌が前歯の隙間から見えやすい・押し出す癖がある
- 鏡を見ながら軽く噛んだとき、前歯の間にすき間が残るのがわかる
- 奥歯を噛んでも前歯が触れないため、前歯でものを噛めず奥歯ばかりで噛んでいる
開咬の原因
開咬は、骨格や歯の発育、生活習慣など複数の要因が重なって生じることが多いです。以下に代表的な原因を紹介します。
- 骨格的な要因
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上あごが縦方向に過成長したり、下あごが時計回りに回転してしまうと、前歯が接触せず開咬になります。骨格性の開咬は矯正単独での改善が難しく、外科的な処置が必要となる場合もあります。
- 歯の生え方や傾き
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前歯が十分に生えてこなかったり、舌側や唇側に傾斜すると、噛んでも前歯が当たりません。また、奥歯が過度に萌出すると下あごが回転し、前歯がさらに当たりにくくなります。
- 口まわりの癖や機能的な影響
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舌を前に押し出す癖や口呼吸は、前歯の隙間を広げる方向に力を加えます。指しゃぶりや長期間のおしゃぶり、頬杖も歯や顎の発育に影響し、開咬を助長します。
- 生え替わりの不均衡と遺伝傾向
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乳歯が早く抜けたり逆に長く残ったりすると、永久歯の生える順番が乱れ、前歯に隙間が残ることがあります。さらに、家族的に縦方向の成長が強い傾向があると、開咬が起こりやすくなります。
開咬の原因は見た目だけでは判断できません。レントゲンや口腔内写真、必要に応じてCTや3Dスキャンで骨格・歯の傾き・舌のスペースなどを総合的に評価することが大切です。当院では開咬の原因を調べるための精密検査を無料で実施しています。
開咬の治療方法
開咬(かいこう)の治療は、上下の前歯がしっかり接触できるように、歯の傾き・位置や骨格のバランスを整えることが基本です。軽度の歯性開咬から、骨格的な要因が大きい重度の開咬まで幅広く、年齢や症状に応じて治療法が変わります。
ここでは代表的な矯正方法や補助的に使われる技術、治療後の保定などについて紹介します。
主な矯正方法
開咬の治療には、マウスピース矯正・ワイヤー矯正・外科的矯正・小児期の機能的矯正などがあり、症例に応じて選択されます。
マウスピース矯正(アライナー)
矯正方法
透明なマウスピースを段階的に交換しながら歯を少しずつ動かし、前歯の接触を回復させます。目立ちにくく、取り外し可能なため生活への負担が少ないのが特徴です。
向いているケース
- 舌癖や口呼吸による軽度〜中等度の歯性開咬
併用される調整方法
- 臼歯の圧下:マウスピースが奥歯全体を覆う力を利用して、奥歯を歯ぐきの方向に沈み込ませる
- 顎間ゴム(垂直ゴム):上下の前歯を引き寄せて噛み合わせを安定化する
- アタッチメント:前歯や奥歯の動きを細かく制御し、垂直的な改善をサポート/マウスピースのフィット感を向上させる
- IPR(ストリッピング・ディスキング・研磨処置):必要に応じて歯の側面をわずかに削り、歯の位置を調整しやすくする
ワイヤー矯正
矯正方法
ブラケットとワイヤーを用いて歯を立体的に動かし、前歯が正しく接触するように整えます。軽度の開咬はもちろん、強いコントロールが必要な中等度〜重度の症例にも有効です。
向いているケース
- 軽度の開咬
- 奥歯の過萌出や前歯の傾斜が大きい中等度〜重度の開咬
併用される調整方法
- 非抜歯矯正:歯列の幅を拡大したり、奥歯を後方へ移動して前歯の接触を改善する
- 抜歯矯正:スペース不足が大きい場合に小臼歯や親知らずを抜き、前歯を後退させて噛み合わせを安定化する
外科的矯正
矯正方法
骨格的な要因が大きい重度の開咬では、矯正治療だけで十分な改善が得られないため、顎の骨を外科的に移動する手術を併用します。症例によっては上下顎同時移動や分節骨切りを行うこともあります。
流れ
術前矯正で歯の傾きを整える → 顎矯正手術(上顎の上方移動や下顎の回転など) → 術後矯正で仕上げ → 保定
※矯正治療よりも先に手術を行うサージェリーファーストもあります
適応ケース
- 噛み合わせの機能的改善が必要な骨格性開咬
小児〜成長期の治療(機能的矯正)
矯正方法
骨の成長を利用して、将来的な重度の開咬を防ぐことを目的とします。早期介入により外科的処置を回避できる可能性があります。
使用される装置・方法
- 機能的装置(バイオネータ):下顎位や舌の位置を整え、自然な噛み合わせを誘導する
- 上顎拡大装置:鼻呼吸の促進や舌のスペース拡大を補助する
- MFT(口腔筋機能療法):舌や唇の筋肉の使い方を改善し、後戻りを予防する
補助的に用いられる装置・技術
開咬は単に歯を動かすだけでは改善や安定が難しい場合が多く、主要な矯正方法に加えて補助的な装置や技術を組み合わせることがあります。
これらは単独で使うのではなく、奥歯の過萌出抑制・前歯の接触強化・歯の傾き修正などをサポートし、治療効果を高めたり再発を防いだりする役割を持っています。
歯科矯正用アンカースクリュー(ミニスクリュー)
役割
骨に歯科矯正用アンカースクリューと呼ばれる小さなスクリューを埋め込み、歯を動かすための固定源とする方法です。
使用されるケース
- 奥歯を効率的に圧下して、下顎を反時計回りに回転させたい場合
効果
前歯の自然な接触を得やすくし、非抜歯での治療の可能性を広げます。
垂直ゴム
役割
上下の歯にゴムをかけ、前歯を噛み合わせる方向に力を加えます。
使用されるケース
- マウスピース矯正やワイヤー矯正で前歯の接触を安定化させたい場合
効果
前歯同士の接触を強め、開咬の後戻りを予防します。
トルクコントロール
役割
歯の傾きを精密に調整し、唇側/舌側方向の不自然な角度を修正します。
使用されるケース
- 前歯が舌側や唇側に大きく傾いて接触不良を起こしている場合
効果
歯が自然に噛み合う位置へ導き、開咬の改善と見た目の調和を両立します。
保定(リテーナー)とメンテナンス
開咬は再発リスクが高いため、矯正後の保定が特に重要です。リテーナーを用いて歯の位置を安定化させ、舌の癖や口呼吸の改善も継続する必要があります。定期的な通院と清掃指導を守ることで、長期的な安定を目指します。
- 固定式リテーナー:前歯の裏に細いワイヤーを貼り付けるタイプ
- 取り外し式リテーナー:透明のマウスピース型など
リスク・注意点
開咬の治療では、以下のようなリスクや注意点を理解しておくことが大切です。治療の性質上、特に再発リスクや習癖改善の必要性が強調されます。
- 歯の移動に伴う痛み・違和感、装置の不快感
- 清掃不良によるむし歯・歯周病リスク
- 歯根吸収や歯肉退縮、ブラックトライアングルの発生
- 舌癖や口呼吸を放置することで起こる後戻りリスク
- 外科的矯正では腫れ・出血・神経症状など手術特有のリスク
開咬の治療期間の目安
開咬の治療にかかる期間は、年齢や症状の程度によって異なります。目安は以下のとおりです。
- 小児の成長期治療:半年〜数年(成長段階により段階的に行うこともあり)
- 成人の矯正単独:12〜24か月
- 外科的矯正を含む場合:18〜30か月
あくまで一般的な目安であり、実際の期間は症状や治療法によって変わります。自身の歯並びの改善にかかる期間について詳しく知りたいという場合は、治療を行う前に歯科クリニックに相談・確認しましょう。
当院の方針
- 原因(歯性/骨格性)と程度を精密検査で“見える化”します。精密検査にかかる費用は無料です。
- 基本的に軽度〜中等度の症例は、マウスピースを使った矯正治療を提案します。
- 診察の際は治療のメリット・デメリットから期間、費用まで丁寧にご案内します。
